ご主人の引退願望が強くなった時、美恵子さんは初めて、二人の16歳という歳の差を痛感します。「私はまだまだ、現役でいたい。時間の止まったようなハワイの快適さはすぐ飽きてしまう…」。アメリカ東部の目まぐるしく、しかし性に合っている暮らしから、一転、美恵子さんは不安をかかえたまま、ハワイに移り住みます。「引越しした日の夕方、海を二人で眺めた時、心が洗われる気持ちになって夫の判断に本当に感謝したの。こんなに美しい夕日をいつも見て暮らせるのね」。
美恵子さんはハワイ大学の政府助成金研究支援の小さなオフィスに勤め、ベインさんは主夫生活をエンジョイし始めます。一年中、青空とそよ風と暮らせるハワイ。しかし、2年前の朝、予兆なしに椎間板ヘルニアが発症し、美恵子さんの右半身はしびれて、動かすことができなくなってしまったのです。健康でない生活など考えたことも無かったのに、医師からは車椅子の生活も言い渡され、それまでとは、習慣、思想、価値観などが大きく変わる事となりました。美恵子さんは責任感が強く、仕事を一人で抱えてしまう性分。「今までストレスでイライラし、職場でも家庭でも不満を撒き散らしていたと思うの。でも相手にぶつけても何も変わらないどころか、お互いにマイナスエネルギーで悪くなるばかりだったな」。手術をして4ヶ月、美恵子さんは寝たきりのベッドで考えました。「空気もエネルギーも経済も血液も滞れば破綻する。総ての活力は“循環”なんだって思ったの」。それは仏教で説くところの「無常」に繋がる。「常に同じであるものはないから、今形あるもの、命あるものに感謝して生きていこう」。ベインさんの献身的な介護のおかげで、後遺症もなく、二人は今まで以上に「感謝」に満ちて幸せに暮らしています。二人にとって最高の癒しはこの「感謝する気持ち」が周りにも反映し、すべてが良い方向へと循環しはじめたことだったのでした。「人は困難に出会わなかったら、感謝することを忘れていることもあるのね。あの4ヶ月は神様からの贈り物だったと思える」。職場復帰後は仲間とも良い関係になり、自分が優しくなることで人の気持ちが動くことを実感します。癒しに包まれる日々。二人にとってワイキキの街は「楽しく皆が幸せだからプラスエネルギーがいっぱい」だといいます。
食生活は無農薬野菜中心。「かつてはお肉もたくさん。でも今は身体と頭が野菜を好んでいるのね。だから一物全体を感謝して命を頂いてます」。美恵子さんが闘病中にはベインさんが台所に立ち、今ではプロ顔負けの本格的なパンやマドレーヌが焼けるようになりました。お二人の趣味についても聞いてみました。ベインさんはお気に入りのバニアンの木の下で瞑想します。ときどき鳥が頭にとまることもあるとか。「ワイキキにはヘビがいないから世界で一番、鳥がリラックスしているんだよ」。と教えてくれました。
美恵子さんは絵を描くことが趣味で水彩画をずっと習っていますが、手軽にできるスケッチも大好きで、目の前にあるもの何でも鉛筆やボールペンで書き写す時は「無」になれる大事な時間なのだそうです。金曜日だけは甘い物やお酒も少々嗜みながら、夜はベインさんの3000枚はあるというDVDコレクションの中からミステリー劇場を鑑賞するのが楽しみなのだそうです。
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